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やぶられた台本(シナリオ) −第2幕−
シーン11      侵入者                             
 渡辺  「ね、ねっ、いい話でしょ。教え子と自分の分の乾パンを分け合う先生。      この部分、何度読んでもジーンときちゃう。」 市村  「うん、良いねえ、私もこんな先生に出会ってみたいなぁ。」 永吉  「うちの担任だったら、自分でみんな食っちまいそうだもんな。」 金本  「そうそう、それで食いきれなかった分を、計算コンクールが良かった      もの順に分けていったりしてな。」 永吉  「おおっ、飢え死にしちまうぜー。」 野口  「ちょっとふざけ過ぎよ、あなたたち。」 二人  「はーい。」 野口  「ねえ、亜紀子さんの『今は全国民が一丸となって敵国を倒さなくちゃ』      っていうセリフが気になるんだけど…。」 富永  「どんなふうに?」 野口  「沖縄って、本土から離れている分、独特の文化風習があったんだって      聞いたんだけど、これじゃまるで本土の人の考え方そのものじゃない      の。」 渡辺  「戦争が始まって、サイパンや硫黄島に向かう中継地として沖縄は軍事上      重要な地点になったの。それで日本軍は急速に沖縄を軍事統制しようと      したの。    (富永に向かって)ね。」 富永  「そう。そして学校での教育も軍事一色になっていって、純真な子ども達      は何にも疑うすべを知らなかったのよ。」 秋里  「そうだよなー、俺たち純真だものなー…。」 永吉  「ああ、純真だよなー。」 金本  「ああ、純真。」 伊藤  「そう、純真。」 市村  「…そう?」    富永、わざとらしくせき払いをする。    富永、渡辺に先に進めるように合図する。 渡辺  「話はいよいよ大詰め、三人の日本兵が洞窟に逃げ込んでくるところか      ら再開するわ。」    舞台袖の照明が消える。    再び中央にスポットライト(青)。    日本兵(志賀、松永、五十嵐)が銃をかついで右手より入場。 五十嵐 「おい、そこにいるのは誰だ?」    突然の侵入者におびえるひめゆり部隊。 平尾  「大丈夫、味方の兵隊さんみたいよ。」 佐野  「ここにいるのは女学生一二名、教師一名です。」    安心して三人が入ってくる。 志賀  「ああ、看護婦さん達でしたか。あの爆撃の中、良く逃げてこられま      したね。」 佐野  「看護婦と言っても、この子達はすでに解任命令が下されて、こうや      って身を隠しているところです。この近くの司令部は今はどこに移      動しているのですか?」 松永  「もう、我が軍の指令系統は無きに等しい。こうやってわずかばかり      生き残った兵隊が局地戦をやっているに過ぎないのだ。」 松山  「ええっ、じゃあ、守備隊に参加している私たちの身内はどうなって      いるの?」 志賀  「あなた方の父上がどこの守備隊に配属されているかは分からないが、      いずれにしても大半の部隊は壊滅状態のはずですよ。」    嘆き悲しむひめゆり部隊。
シーン12      勅令                                
松永  「天皇陛下より、全員玉砕の覚悟をとの勅令が出されておる。牛島軍      司令官は、最期まで敢闘      せよという命令を残し、いさぎよく自決された。」 五十嵐 「全員、このガマより退去せよ。このガマは今より我が軍の管轄とす      る。」    おどろくひめゆり部隊。 土岐  「わ、私たちここの他に行くあてがないんです。」 諏合  「外に出たらねらい打ちにされてしまいます。」 富樫  「お願いです、ここにいさせて下さい。」 斉藤  「決して迷惑にならないようにしますから。」 五十嵐 「ダメだダメだダメだ!食料はどうする。俺たちにはわずかばかりの      食料しかない。貴様らに      分けてやる分は無い!」 臼倉  「食べるものは我慢します。だから置いて下さい。」 佐野  「夜になったら爆撃も減るでしょうし、敵の的になる危険も薄くな      ります。せめて夜まで待っ      てやって下さい。」 松永  「ダメだ!これだけの人数がいると敵に見つかる危険が大きすぎる。      すぐ出て行け。」 志賀  「自分は国家のために命を捨てる覚悟の軍人です。民間のあなた方      も国家のために協力して下      さい。」 佐野  「そんな…。この子達は負傷した兵隊さん達のために、食べる間も      惜しんで働いてきたんです。      それを使い道が無くなった物みたいに捨てるんですか?」    五十嵐、佐野の言葉よりも自分の軍人としてのプライドと死への恐怖    が頭を支配してきて、佐野を銃を持った腕で突き飛ばす。 佐野、飛ばされて倒れ込む。    五十嵐、さらに銃刀をつきつけて、 五十嵐 「おのれみたいな奴が教育などしておるから、こんなガキが育つ      のだ!」    五十嵐、佐野の肩を突く。 銃刀が佐野の肩に深い傷を付ける。    悲鳴を上げるひめゆり部隊。    洞窟の外から声が聞こえる。 テシ  「何の騒ぎだ!外に丸ぎこえだぞ!…あっ……。」    テシ、洞窟には行って来るなり、中の様子に驚く。 テシ  「さっ、佐野先生では…?」    テシ、倒れている佐野に走り寄り、抱き抱える。    志賀、テシの代わりに見張りのために外へ行く。   臼倉、あの乾パンをくれたあの人よ、とほっとした顔をまわりの者    に見せる。 佐野  「…あ、テシさん……。良かった…生きてらしたのね……。」    佐野、気絶する。    心配で近くにいる者がまわりに集まる。 松山  「先生!」 テシ  「大丈夫、傷は浅い。すぐ手当をすれば助かる。」 臼倉  「手当と言っても、今の私たちには何もないんです。」 すがるように近づく臼倉。    テシ、気の毒そうな表情から、無理に明るい顔をして、 テシ  「大丈夫。自分が病院壕に運ばれたとき、本当に助けてもらった      のは医者の手術ではなかった…。     それは看護婦さんたちの笑顔でした。」    しばらくの沈黙。    この雰囲気には五十嵐、松永も入っていけない。
シーン13     兵隊さんは手榴弾をくれた                                
   突然、静寂を破るような、志賀の叫び声。 志賀  「敵に囲まれたぞー!」 スポットライト(青)から(赤)に変わる。    松永、五十嵐は緊張した表情で外へ行く。    ひめゆり部隊、佐野先生とテシにすがりつくように身をかがめる。    寺だけは一人ぽつんと立っている。    テシ、懐から手榴弾を取り出す。 テシ  「もう、覚悟を決めた方が良いかも知れない。敵に踏み込まれ      る前にこれを…。」    手榴弾を受け取る臼倉の手は震えている。 テシ  「悲しむことはない。いさぎよく死んだ者は靖国神社に神とし      てまつられるのです。じゃ。」    銃を抱えて出て行くテシ。    臼倉の手の中の手榴弾を見つめる一同。    間もなく銃撃戦が始まる。効果音テープ(ダダダ…) 銃撃戦が終わった後の静けさが怖い。    一人立っていた寺がいつの間にか近寄り、奇妙な行動をする。 寺   「あぁ、お芋さんだー。」    臼倉から手榴弾を取りあげ、 寺   「あはっ、お芋さん、お芋さん。」 松山  「か、香織ちゃん…。」    斉藤、心配のあまり口元を押さえて涙ぐむ。    他の者も斉藤と同じような状態。 寺   「お芋さん、蒸かしてたーべよ…。」 篠   「香織ちゃん…!」    寺、しだいにうつむきかげんになり、涙をこらえながら、 寺   「心配しないで!わたし…、まだ狂っていないから……。」    沈黙。 寺   「…私、死ぬのいや。生きていたいもん!」    みんなに訴えかけるように、 寺   「まだやりたいこと、いっぱいあるもん!死にたくないもん…。」    スポットライト(赤)消える。
シーン14     緊張と悲しみ                                
   (時間が経過して、夜になったという設定。)    再びスポットライト(青)が点く。       効果音テープ(虫の音)スタート。    沈黙が続く。    身を寄せ合って恐怖に耐えていたが、今では疲れ切ってしまっている。    誰からともなく、つぶやきが聞こえる。 松山  「今日も…、生き残れたのね…。」 篠   「あの兵隊さん達…、死んじゃったの…?」 土岐  「のぶ子も、よね子もあい子も、みんな死んじゃったのに…、何      で私だけ生きているんだろう……。」 諏合  「みんな仲良かったもんね、尚子さんとは…。」    佐野先生、気がつく。 佐野  「うっ……。」    物音を立てないように、全員集まる。 平尾  「先生、傷は痛みますか?」 佐野  「心配かけてごめんなさい。みんな無事?」 菊地  「はい、敵も奥にいる私たちのことまでは気付きませんでした。」 佐野  「そう、良かった…。」    斉藤、外の物音に気付いて、 斉藤  「しっ。外に誰かいる!」    一瞬にして緊張した雰囲気に包まれる。    一同、身をかがめて外の様子をうかがおうとする。 富樫  「…気の…せいじゃないの?」 鈴木  「あーあ、こんな生活、いつまで続くんだろう…。」 篠   「髪がぼさぼさ…。」 平尾  「ふふ、おかしい。こんな時に髪を気にするなんて。」    少し含み笑いが起きるが、すぐに静まる。 古川  「明日もみんな生き延びられるかな…。」    一同、それ以上の言葉を失ってしまう。 誰からともなく歌を唄う。(鈴木ー古川ー菊地の順に全員で)      うさぎ追いし あの山      こぶなつりし あの川      夢は今もめぐりて      忘れがたきふるさと      いかにいます 父母…      ……… 寺   「お母さん…、どこにいるの?生きているかなぁ……。」    一同、すすり泣く。    右の二階に照明がつく。    ハンドマイク(森山)と銃を向けた米兵(新井元、中野)がいる。 森山  「この洞窟は危険デス。出て来なサイ。誰もいないのデスカ。こ      の洞窟から出て来なサイ。日本は負けたのデス。これ以上無駄      な命を捨てないでクダサイ。おとなしく出て来なサイ。誰もい      ないのデスカ。本当にだれもいないのデスネ。ここは危険デス。      これが最後デス。本当にだれもいないのデスネ。」    右の二階の照明が消える。
シーン15     勇気ある決断                          
照明係を除いて2階の役者は下に来て、エンディングの準備をする。
佐野  「みんな、覚悟を決めましょう。」    一同、「せんせー」と泣きながら佐野先生にすがりつく。 佐野  「あら、テシさんが下さった手榴弾は?」    一同、困惑した表情。 菊地  「みんなあんまりお腹が減っていたもんだから、蒸かして食べち      ゃいました。」 菊地の突拍子もないおふざけに一同含み笑いをする。    その笑いがいつしか、お互いに微笑みかけるように変わっていく。 鈴木  「先生はずっと前、私たちにこう教えて下さいました。世の中に      はいろんな立場の人がいて、いろんな考えの人がいる。でも、      みんな生きるために一生懸命だって。一生懸命勉強して、一生      懸命運動して、そして一生懸命働いて…。それが人の生きる道      だって…。」
古川  「戦争ではそうでは無くなるんですか?私たちに生きる喜びを与
     えて下さったあの兵隊さんが、最期には私たちに死ぬ道具を下さった…。」

土岐  「でも、敵兵に捕まったら、何をされるか分からないのよ。おじいちゃんが言って
     た。敵兵はおんな子どもも容赦しないって。」

斉藤  「敵に捕まるぐらいなら、いさぎよくみんなで死のう!ね。」

寺   「私たち何にも悪いことしていないのに…。誰にも迷惑かけたこと無いのに…。
     何でこんな事になっちゃったの?」

篠   「戦争が始まるまでは、みんな平和に暮らしていたのに…。ずっとこのまま暮
     らしていけると思っていたのに…。」

松山  「戦争がいけないのよ。みんな戦争で変わっちゃった。優しかった本土からの
     兵隊さん達も、戦争が始まったらまるで人が変わったよう(に)。敵兵よりも怖
     かった、あの人たちの顔…。先生だって…。」

佐野  「……!」

   佐野、痛みをこらえながら、立とうとする。

   まわりの者に支えられて、ようやく立ち上がる。

   よろよろと歩き出す。

佐野  「そうよ…、今ここで死んではいけない。この子たちにはどんなことがあっても
     生きてもらうわ…。私が育ててきたのはどんなことにもへこたれない子供よ…。
     私はこの子たちを信じる……。信じるわ…。」

平尾  「先生!」

   平尾、佐野先生の方を支えようと駆け寄る。

佐野  「だめ。先生一人で先に行かせて。」

平尾  「ふふっ、学校でも私、先生の言うこと聞かなくて、よく叱られていたね。」

   平尾と佐野先生が歩き続ける。

   まわりの者もしだいに佐野先生を支えて歩き出す。

   出口のところで一同が止まる。なかなか決心が付かない。

佐野  「みんな、私の自慢の子供たち…。」

   一歩を踏み出す。

   強力な照明に一同の顔が照らされる。

スポットライト(白)に変わる。

   自然音の効果音。(エンディングビデオ)

…… スタート係は 金本

   いっさいの照明が消える。

   エンディングビデオスタート。



 

   第一幕(オープニング/戦争ごっこ?/反発する者たち)
   第一幕(ボスの追い打ち/動揺/戦争の理由)
   第一幕(真実を見つめて/いま、クラスが団結するとき)
   第二幕(舞台は沖縄/みんなで分け合った乾パン)
   第二幕(兵隊さんは手榴弾を/勇気ある決断/エンディング)
   参考文献、おわりに



 
 

 

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