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やぶられた台本(シナリオ) −第1幕−
シーン7      真実を見つめる                                
佐野  「日本軍が関東軍と名乗って、中国でやってきたことは…?」 柬理  「南京大虐殺か…。」 松永  「おい、あれって、嘘だったんじゃないのか?」    松永の言葉に、息をのんでいたまわりの者の緊張が急に解れて、    柬理 「なに言ってんだよ。」    金子 「ニュースの一部だけをかいつまんでんじゃねぇよ。」    金本 「歴史で何習ってんだよ。」    斉藤 「しんじらんなーい。」    富樫 「うっそー。」    落合 「これは問題発言だ。」    平尾 「もう、軽蔑しちゃう。」    宮口 「Oh my God!」 松永  「なっ、なんだよー、ニュースで見たんだよー!」    佐野が話を続ける。  佐野  「…無知って、怖いよね…。」 松永  「なっ、何だよ、お前まで。」 佐野  「違うのよ、そういう意味じゃなくって。戦争って、一部の指導者だけが本当の ことを知っているだけで、民衆は何にも知らないの。どんなに自分たちが大変 な状態になっていても、絶対に自分たちは勝つんだ、自分たちは神の国の民族 だから負けることはないんだって信じてる。たとえそれが死への行進だって、 お国のためだからと潔く死んだのよ。」 仁平が五十嵐を見て、しみじみとつぶやく。 仁平  「…敢闘精神!玉砕の心意気じゃ…か。」 佐野  「大東亜共栄圏…、日本がアジアを治めればアジアの人達みんなが幸せになれま すってこと…。そう言って、アジアの人達に何をやってきたのよ!」    しばらくの沈黙。 鈴木  「わたし…、今でも忘れられない…。歴史の授業で見せてもらった写真…。」 伊藤  「ああ、あの日本兵が生首を持って記念撮影をしているやつだね。」 鈴木  「…にこって…笑ってんのよ…!」    しばらくの沈黙。 秋里  「戦争っていう極限状態におかれたら、誰でもああなるんだと思う。きっと、 あの兵隊は本当に笑っていたんだと思う。自分がやっていることは笑いなが らでも出来ることなんだって考えるしかなかったんだと思う。」
シーン8      本当の勇気                                
佐野  「戦争って、突然起きるものじゃないのよ。きっと、徐々に徐々に動き出して いったと思うの。最初は危険を感じて反対する人もいたのよ。でも、大多数 の民衆は何にも言わなかった。無関心だった。自分には関係ないからどうで もいいやと思っていた。」 宮口  「このクラスみたいじゃん。ははは…。」 一同、宮口の言葉にぎくっとする。    しばらくの間。 伊藤  「引き返すのは今のうちだ…。もう始まったら、誰にも止められない!」    しばらくの間。 永吉、無関心組を説得にまわる。    古川と鈴木、ミーハー三人組を説得する。    永吉、仲間連中を見て、しばらくためらうが、松永を説得する。    松永、柬理と五十嵐に同意を求めるように小突く。    柬理、学級委員としての志賀に向かって、 柬理  「なぁ、どうする?」 志賀、箱森のことを気にかけながら、しばらく思案する。 志賀  「そうだな、先生を怒らせずに説得する方法をみんなで考えるか。」    一同、歓声を上げる。ただし、箱森を除いては…。    黒板側に集まってくる一同。 佐野  「ねぇ、みんなで考えるんでしょ?」 志賀  「ああ、みんなでな。」    佐野、箱森を見つめている。    一同、佐野の視線の先に箱森を見る。 沸き上がった雰囲気が急に冷たくなる。 佐野  「箱森くん。あなたはただの乱暴者じゃないわ。みんなに指示を出したり仕事を 分担したり、そういうのって才能だと思う。学級委員の志賀くんは確かに勉強 は出来るけど、リーダーとしての力はあなた程じゃないと思うの。二週間で文 化祭を仕上げるにはあなたの協力が絶対必要なの!」 箱森  「仁平!」 仁平  「はっ、はい!」     仁平、箱森の手招きに応じて近づく。 箱森  「シナリオ、出しな。」 仁平  「え……?」 仁平、戸惑いながらもシナリオを出す。 箱森  「誰が何と言おうと、ステージ発表をやる気持ちは変わらない。」    全員、落胆の色を隠せない。    それに追い打ちをかけるように、 箱森  「他のやつも、シナリオを出せ。」    一度はまとまりかけた集団の中に散らばっている四人衆、戸惑う。    シナリオを出そうと迷うが、近くの者に目で訴えかけられる。    箱森のそばにたつ仁平の肩が次第に震えてきて、目は堅く閉じられていく。    ついに決心が付いたとき、大きな使命感に勇気がわいてくる。    仁平、後ろのみんなに出来る限りのほほえみを見せ、そしてシナリオを掲げる。    ゆっくりと、シナリオは破られていく。    一同、仁平の身に危険を感じる。    仁平、ゆっくりと箱森の前にまわり、破れたシナリオを箱森の前におく。    箱森の視線がそのシナリオから仁平の顔にゆっくりと移る。 一同、ゆっくりと二人に近づいていく。    仁平、箱森に見つめられても目を離さず、ほほえんでいる。    箱森、ふっとため息をついた後、破られたシナリオを手に取る。    シナリオをさらに二つ、そして四つにと、破っていく。 箱森  「シナリオ、書き直すぞー!」    一斉に歓声が沸く。



   

   第一幕(オープニング/戦争ごっこ?/反発する者たち)
   第一幕(ボスの追い打ち/動揺/戦争の理由)
   第一幕(真実を見つめて/いま、クラスが団結するとき)
   第二幕(舞台は沖縄/みんなで分け合った乾パン)
   第二幕(兵隊さんは手榴弾を/勇気ある決断/エンディング)
   参考文献、おわりに



 
 

 

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