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やぶられた台本(シナリオ) −第1幕−
 舞台設定 …教室。     放課後の三年三組。         文化祭の準備をしている。   登場人物 … ボス (箱森)         ボスの仲間 (志賀 松永 柬理 五十嵐) ボスの仲間だけど、台本を破るかっこいい役 (仁平)   ボスに反感を持っている役 (秋里 伊藤 永吉)  無関心な男子 (金本 中野 落合 金子 宮口) ボスを肯定するミーハー女 (斉藤)(富樫)(平尾) しっかりしている学級委員(佐野) 不満を持っていた女子(古川)(鈴木) 係分担  … 照明係右 (森山 新井元) 照明係左 (萩原 新井玄)
オープニングビデオ                                    
オープニングビデオメッセージ    「この演劇を上演するにあたり、沖縄戦で亡くなったすべての人々に追悼の意を捧げます。 できるかぎり史実を歪めないように努力しましたが、多くは創作であることをあらかじめ お断りいたします。これは戦後に生きる私たちの最大限の問いかけです。」 曲(IMAGINE)スタート    タイトル「やぶられた台本」 曲が中断する。
シーン 1    戦争ごっこ                                    
戦争ごっこ組 「バキューン ダダダダダ…… うわーっ ダダダダ…… うおっ」
右手(日本軍)
  志賀、五十嵐、仁平、
  金本、中野、落合
左手(米軍)
  松永、柬理、宮口
  金子
ごっこを見ている
  斉藤、富樫、平尾
他の作業をしている
  佐野、古川、鈴木
  秋里、伊藤、永吉
志賀  「五十嵐二等兵!」 五十嵐 「はっ!」 志賀  「前へ!」    五十嵐、志賀のところへ腰をかがめながら近づく。 志賀  「突撃しろ。」 仁平  「五十嵐、敢闘精神、玉砕の心意気じゃ!」 五十嵐 「はっ!五十嵐二等兵、ただ今より敵陣突破の任務に付かせていただきます。」 志賀  「潔く死んでこい。」 金本  「死ぬときは一緒だぞ。」 中野  「自分たちもお供します。」 落合  「自分も。」 五十嵐 「よし、いくぞ。」 四人  「うおーーー… ダダダダ…」 米軍役 「ダダダダダダダダ…」 四人、機関銃に打たれて倒れる。 松永  「ヘイ!突撃するアルヨ!」 箱森、松永のセリフにずっこけて 箱森  「カーーーット!」    箱森、松永へ歩み寄って 箱森  「おまえはなに人なんだ?」 松永  「だって(台本をあわてて取り出し、指をさして)、セリフは自由って書いてあるじゃないか。」 箱森  「『あるじゃないか』?」 松永  「あっ、(おびえて目をそらしながら)…あるじゃありませんか、箱森様。」 柬理  「自由って言っても、俺たちアメリカ軍の役なんだぜ。それなりのセリフにしようぜ…( 箱森のご機嫌をとりながら)そうですよね、監督。」 箱森  「うむ、おめーもなかなか気が回るようになったな。よし、俺様の使いっぱ一号に昇格してやろ う。」 柬理、まわりの者を見回しながら得意気にしている。 仁平  「じょ、冗談じゃないぜ。柬理なんかに箱森様の使いっぱが務まるわけないですよ。」 五十嵐 「なんだ仁平、おまえ使いっぱ一号の座を取られたくないからって。」 仁平、箱森の肩をもみながら、 仁平  「いやぁ、そんなことないって。ぼくはただ箱森様のお役に立てるだけで幸せなんだ。」 箱森  「うむ、良い心がけだ。どうだ、松永の次のセリフを誰か考えてやらんか。」 松永  「うん、アメリカ軍がどんなかけ声をしたかを知りたいな。」    一同、考え込む。宮口がスッと出てきて、 宮口  「ファック ユー!」 全員(作業中の人達も含めて)宮口の意外な発言に驚き、目を向ける。    すぐに何もなかったかの様に無視をする。 五十嵐 「やっばりここは英語の得意なやつが考えるべきだよな。」 志賀  「俺か?おれ。」 一同  「はははははははは……。」 宮口  「な、なんだよぉ…。みんなでシカトすんじゃねぇーよ……。」    宮口、いじけて隅に戻る。
シーン 2    学級委員の立場                                    
平尾と富樫と斉藤の三人は何やら相談する。    富樫と斉藤、柬理に耳打ち。 柬理、後ろで作業している佐野にこれ見よがしに大声で、 柬理 「そうだ、英語のことなら学級委員の佐野さんに聞いてみればぁ?」    佐野、作業の手が止まり、戸惑いを見せる。 斉藤  「そうそう、この間のテスト、百点取ったって自慢してたもんねー。」 富樫  「へぇー、百点?さっすが学級委員だー。」 平尾  「あら、ダメよあなた達。佐野さんはね、私たちのやってる劇が気に入らないみたい なのよぉ。」 佐野、悔しそうに身を乗り出すが、古川と鈴木になだめられる。    秋里、伊藤、永吉は気を使いながら、黙々と作業を進める。 志賀  「さっすが学級委員ともなるとおれ達とは次元が違うってかぁー?」 仁平  「おまえだって学級委員だろ!」 松永  「いづれにしても、学級委員ともあろう者がクラスの和を乱さないでほしいよな。」 五十嵐 「そぅそぅ、他のクラスに対して格好悪いよな。」 平尾  「それに影響される子もされる子よね。いつも隅っこで固まってさ。」 斉藤  「なんかくらいのよねー。類は友を呼ぶって、このことだよね。」 富樫  「おお、斉藤、インテリぃー。国語は得意ね。」 斉藤、訳も分からず照れる。 箱森  「おまえら、今からでもこの劇に加わりたければ入れてやるぞ。どうだ?」    しばらくの沈黙。視線は作業の六人に集まる。    永吉、力強く立ち上がる。 永吉  「ションべン…。」    永吉、箱森とすれ違いにドアへ向かうが、箱森に押し止められる。 箱森  「劇の練習が終わるまで出ることは許さん!」 志賀  「そうそう、劇はみんなで練習するって、話し合いで決まったもんな。」    箱森、永吉を元の場所へ突き戻す。    伊藤、書き終わった模造紙を両手に掲げる。    そして箱森達に対する不満をその一言にぶつけるように、 伊藤  「よし、完成だー!」    一同、伊藤に目を移す。 箱森、歩み寄り、伊藤の模造紙を取りあげて、 箱森  「なになに、太平洋戦争で戦死した人の地域別一覧表…。はっ、くだらんな。」 伊藤  「なっ、なんでだよ!」    箱森、脅しをかけるつもりで近くのイスを蹴りあげて、 箱森  「なんだぁ、その口の聞き方はぁー!」    伊藤、さすがにびくついてしまって、先程までの勢いがなくなる。 伊藤  「何がくだらないのか説明してよ…。」
シーン 3   楽しい戦争劇に?                                     
箱森  「志賀、説明してやれ!」 志賀、いきなりの指名に戸惑うが、ゆっくりと伊藤の肩越しまで近づいて、 志賀  「そもそもこういう資料って、信憑性がないんだよ。だいたいどこの国も自分たちが、 さも被害者ですって書き方してんだ。」 伊藤  「そんなことはないよ、これはちゃんとした数字だよ!」 志賀  「じゃあ、どこの誰が調べた数字なんだい?言ってみろよ。」 伊藤  「そ、それは……」 永吉  「そこまで詳しく見る必要あるのかよ!」 志賀  「あるね。…資料を見るときにはそこが一番重要なんだよ。数字に出ていない隠された 事実が絶対にあるんだ。」 永吉  「そんな難しいこと、おれたちに分かるわけないじゃんか。」 箱森  「そう、分からねぇよ。分からねぇことは最初からやらねぇでよ、みんなでパアーと楽 しい戦争劇をやろうぜ、な。」    佐野、とうとう立ち上がり、 佐野  「楽しい戦争劇…。戦争って楽しいものなの?」 ミーハー三人組、すばやく反応する。 柬理  「楽しくない戦争を楽しく見せるのが面白いんじゃん。」 永吉  「楽しく見せられる戦争なんてあるのか?」 箱森  「おめぇーはすっこんでろ!」    箱森、机に座るのを止め、佐野の方へ歩み寄る。    永吉、佐野の背中に隠れるようにすっこむ。 箱森  「佐野さんよー…。」    箱森、佐野を見おろすつもりが視線が合わず、仁平に指示する。    仁平、近くのイスを踏み台として差し出す。    箱森、イスに乗って、 箱森  「おれたちのやろうとしていることは文化祭なんだよ。文化祭は楽しくなければお客は 素通りしちまうんだぜ。」    ミーハー三人組、箱森の威を借りて、 富樫  「そうそう、どんなに一生懸命調べて書いても、興味のひかないものは読むどころか 見てもくれないしさ。」 斉藤  「あるある、むなしいよねぇー、それって。」 平尾  「戦争についての記録なんかを展示したって、誰が読んでくれるもんですか。」 三人で 「ねー。」 佐野  「でも、少なくとも戦争の悲惨さをみんなに分かってもらえるわ。」 秋里  「いや、それはどうかな…。」    今まで黙っていた秋里が口火を切り、注目される。 秋里  「現代のように情報が氾濫している世の中ではさ、本当に必要と思われる情報は自分 で探すんじゃないかな、みんな。戦争についてだって、図書館に行けばいくらでも 手に入るし、テレビでもやっているし。」 志賀  「はっはっはっ、そうだろ。」    秋里、伊藤と佐野に向かって、 秋里  「だから、図書室で借りてきた本を模造紙に写して展示したって、どんなにていねい に目立つように書いたって、意味がないんだよ!だからおれ…、おれさ…、何だか 書いていて悲しくなってきちゃって、でも、だからって、戦争ごっこみたいな劇に は出たくないしさ…。どうすればいいんだよ、あと二週間だよー…!」


  

   第一幕(オープニング/戦争ごっこ?/反発する者たち)
   第一幕(ボスの追い打ち/動揺/戦争の理由)
   第一幕(真実を見つめて/いま、クラスが団結するとき)
   第二幕(舞台は沖縄/みんなで分け合った乾パン)
   第二幕(兵隊さんは手榴弾を/勇気ある決断/エンディング)
   参考文献、おわりに



 
 

 

 

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