HOME展示室文化祭>合唱祭がなくなる日



「合唱祭がなくなる日」台本

 

この脚本は私のオリジナル作品です。
クラスの半数が舞台に立つということを目標につくりました。
内容は、第一幕が「合唱祭前の出来事」、第二幕が「合唱祭当日」という、二幕構成です。
素人の私が悪戦苦闘して仕上げた、脚本第1号です。
これを演じ切ったときの中学生の感動は大きいものでした。
  • あらすじ
 合唱祭直前の1年3組の教室。学級委員の山崎が中心となって練習しているのだが、多くの生徒はやる気がない。
 放課後はすぐに部活動に行きたいと思う者、どうせ練習しても無駄だとやる気をなくしている者がほとんどだ。
 さらに、学級委員の山崎に反感を持っている者もいるので、どうしようもない状態。そんなとき、合唱祭が今年で廃止
 になるかもしれないという話しが飛び込んでくる。
 クラスはどう動いていくのだろうか・・・






文化祭一覧へ戻る     HOME


◆第1幕
● シーン1
   幕が上がる。

   合唱の練習中。実行委員の山崎が中心に立ち、ラジカセを持っている。
   突然テープを止めて

山崎  「もっとちゃんと歌ってください。」
ふざけた男女 「はーい。」
新井 「おい、ふざけてないてちゃんと歌おうよ。」
佐々木 「そーだよ、早く部活いきてーよ。」
小島 「そういうあなた達、歌ってるの?」
新井 「おお、歌ってるよ。」

テープの頭出しが終わり、伴奏が再び始まる。歌い始めと同時に、またふざけ合いが始まる。
テープを止める。

仁平  「おい、またかよー。」 (「やってらんねーよなー」と佐々木ら)

高橋ま 「お高くとまってんじゃないわよ、あんた。」
高橋あ 「一人いいこぶっちゃって、ねー。」(4人組で「ねー。」と相づち)
大井  「ちょっとぐらい勉強ができるからって、先生に気に入られらるような事ばっかりしないでよー。」
     (また4人組で相づち)

山崎 「私、そんなつもりありません。」

古澤 「わたし知ってんだからね。合唱祭実行委員を決めるときだって『せんせー、実行委員になった
   ら通知表に書いてもらえるの?』だってさー。」

一同 「えーっ」
岡田 (でっち奉公の走り方で)「先生、それって本当ですかぃ?」
大塚 (岡田を追いかけていって、グイッとひきもどし)「よせよ、はいそうですって先生が答えるわけな
   いだろ。」

仁平 「やってらんないよなぁー、おれたちはあいつのために大切な時間をうばわれているのかよー。」
高橋ま「冗談じゃないわよねえ、他のクラスなんてもうとっくに終わってんのよー。」

しだいに歯止めが効かなく、騒ぎだしていく。

   大塚 「もう適当なところで止めにしようぜ。」
   佐々木「部活行きてーよ。」
   古澤 「わたし今日友達と待ち合わせてんのよ。」
   仁平 「やってらんないよー」
   高橋あ「やったってどうせ無駄なんだからぁ、きゃはは。」
    中内 「もう止めにしよう。」
   新井 「そうだそうだ、やめだ、やめ!」

 ふざけた男子が一斉に止めコール。しだいに女子もまじり、他の男子もつられ、6人の女子を除いた
全員が手を叩きながらはしゃぐ。

ガタンという、教卓を蹴り飛ばす音がなる。
一瞬にして静かになる。

教師が教室から出ていく音だけが聞こえ、全員が目で追っている。
山崎があたふたと教師の後を追う。

先頭へジャンプ


●シーン2

仁平たち「ラッキー!」 (チャチャチャと手拍子)
仁平  「今日はもうおしまい。」
高橋あ 「きゃは、やっと帰れ(はっと周りを気にして)、部活へ行ける。」
佐々木 「おーい、早いとこ帰りの会やろーぜ。」

まじめな女子4人は教師を追いかけて出ていった山崎をどうしようかと戸惑っている。
その他の女子と男子は椅子と机をならべている。
めいめいで話を盛りあげながら、帰りのしたくをしている。

井上  「おい、日直だれだよー。(岡田に)おう、おまえ行ってこい。」
岡田  「え、ぼ、ぼくが?」
井上  「そうだよ、はやく終わりにしたいだろ?」
岡田  「あ、ああ、分かりましたよぅ。」

とぼとぼと前へ歩いていく岡田。
周りはほとんど無視して話しこんでいる。

岡田  「えー、しずかに、してください。」

頭をかき、照れた様子。
井上が、司会を進めろと合図する。

岡田  「これから帰りの会を始めます。教科係から明日の連絡です。数学係。」

大井も話に夢中で聞いていない。
井上が焦れて、

井上  「数学係!」
大井  「あ、はい、いつものとーりです。」
岡田  「英語係。」
山本  「いつものとおりです。」
岡田  「音楽係。」
古澤  「いつものとーりです。」
岡田  「道徳係。」
高橋あ 「いつものとーりです。」

寺村 「エーッいつものとおりって、いつもなにやってんだっけー?」

寺村の疑問は解決されないままに、

岡田  「体育係。」
高橋ま 「女子はいつものとーりです。」
岡田  「体育係の男子は。」
井上  「おい、仁平。」
仁平  「あー?」
井上  「教科の連絡!」
仁平  「ああ、適当に持ってきて。」
井上  「ちゃんと言わなきゃ先に進めないんだよ。」

しぶしぶ立ち上がって、

仁平  「てきとうにもってきてください。」

 阿部の「はちまきは?」という、越に対する質問はほとんど取り上げてもらえない。越は首をかしげ
て、分からないと答えている。

岡田  「他の係りから連絡はありませんか。」

阿部が手をさっと上げる。

岡田  「阿部君。」
阿部  「理科係からなんですけれど、明日がワークの締切日になっているので必ず出してください。
     なお、忘れた人は先生のほおずり(手のひらで表現しながら)がプレゼントされるそうです。」

一同  「げげー!」

これは忘れられないと、生活記録ノートに記入する。中には手のひらに書ている者もいる。

先頭へジャンプ


● シーン3

岡田  「他にありますか。」
高橋たち「ありませーん。」
岡田  「班からの意見、要求等はありますか。」

生方が堀川と目で確認しあって、手を上げる。

岡田  「生方さん。」
生方  「一班からですけど、四班の中内君と大塚君は授業中うるさいので席を前へ移動してもら
     いたいので席替えを要求します。」

佐々木の「めんどくせーよ。」の声がかすかに聞こえる。
それよりも素早く中内が立って、

中内  「えー?おれたちがいつしゃべったんだよー!」
高橋あ 「きゃはは、あんたたち、いっつもしゃべってんじゃないのよ、きゃはは。」

場違いな発言に周りのものが顔を向ける。
      はっと気付いて口に手を当てる高橋あ。
生方は堀川と相談して、

生方  「社会の時間、勝手に席を立って騒いでいました。」

思わず大塚も立って、

大塚  「あれは井上君が僕の色鉛筆をとった(んだ。)」

ガタッと井上が立って、大塚をにらみつける。
 びくついて座る、大塚と中内。
 一瞬緊迫した空気が流れる。
佐々木がしびれを切らしたように、

佐々木 「どうでもいいから先生を早く呼んでこいよ。早く部活に行きたいよ。」
仁平  「そうだよ、こんなことしているひまがあったら早く部活へ行きたいよ。なんたって今日
     からレギュラーなんだぜ、おれ。 れ・ぎゅ・ら・あ!」

高橋ま 「えー、何でぇー?」

仁平  「この間の練習試合でさ、2年の先輩のほとんどが水筒にコーラ入れてきてな、それを
     見つかっちゃってんの。おまえらもう試合に出さねぇー、てさ。良く炭酸抜いてきてれば
     ウーロン茶ですって言えたのに、ジュワーってあわがたっちゃおしまいよ。」

新井  「おまえは見つかんなかったんか?」

仁平  「あの日は水筒持って行くの忘れちゃっててな、(みんなでジェスチャーしながら)セーフ!」
先頭へジャンプ



●シーン4

「ははは、やってくれるよ仁平は。」などと盛り上がる。

「ガラガラ……」とドアの音。
 山崎が戻ってくる。
静まる教室。

佐々木 「何だよ、先生連れてきたんじゃないのかよぉー。」

 駆け寄る女子数名。
 何やら話しかけられるが、愛想笑いぐらいしかできないほど落ち込んでいる山崎。
 座席につき、帰りのしたくをやりかけるが、机に伏せてしまう。 

全員がそれを見つめていたが、佐々木がはっと我に帰ったように、

佐々木 「司会者、終わったのかよー。」
岡田  「あ、うん。」
佐々木 「じゃあ、だれか先生を呼びに行かせないと!」
岡田  「えーと、誰か立候補してみようと思う…(人はいませんか。)」
中内  「じれったいなー、(ぱっと立ち上がって)じゃんけんで決めようぜ。」

「よっしゃー!」と、盛り上がり、じゃんけんが始まる。

山崎  「やめてーっ!」

静まる。

山崎  「あれだけ、みんなでやろうって決めたことなのに……あんなに最優秀賞は
     私たちがもらうって、頑張ろうって決めたのに……なんでぇー?」

(間合い)

仁平  「確かに最初はおれだってやる気になったよ。賞状が一枚ぐらい教室に飾っ
     てあったら、ちょっと気持ち良いかなーて、…でも…。」

越   「俺たち、つらい立場なんだよ。運動部にとっては今が大切な時期なんだ。三
    年生が抜けて、俺たち一年生にもレギュラーって座がちらついてきてるんだ。
    仁平みたいにもうレギュラーになったってやつもでてきているし。とにかく放課
    後はすぐ部活へ行かなきゃだめなんだ。」

生方  「だって、部活よりも学級の活動の方が優先でしょ。」

高橋あ 「それが通用しないから大変なのよねーきゃはは。」

はっと、居づらそうに頭をすくめる高橋あ。
山崎以外はついそちらを見てしまう。

大井  「(山崎の横顔に向かって)本当にそうなの。合唱の練習で遅れますって先生
     や先輩に言いに行ったら、一応口では頑張れって言ってはくれるんだけど、
     またかって顔をされるのよ。」
小島  「えーっ、信じられなーい。うちの部活なんて、部活でやれなかった分は自分で
     補強しなさいって、優しく言ってくれるよー。」

大井  「でも、同級生の目はどう?用具の準備をしたり、外周を走ったり、筋トレで疲
     れきった後、先輩の練習の手伝いをやって、やっと自分たちの練習ができる
     というときにのこのことやってきた人をどう思ってる?」

(間合い)

井上  「まっ、とにかく、我々中学生には合唱祭なんかよりも部活動の方が大切と!」
岡田  「あはは、自分は全然出てないく…(せに。)」

井上がにらみ、声をつまらせる岡田。

生方  「樋口先生、言ってたよ。三組は元気がいいからこのまま行けば賞状がもらえ
     るだろうって。」
井上  「はっ、せんせーの良く使う手だよなぁ、おだてりゃすぐにやる気になるって思
     ってるんだからよぉ。」
中内  「じゃ、俺たちも負けずに先生たちをおだててやろっか。高田先生、僕、先生
     のお陰で日本の文学にとても興味を持てるようになりました、ってさ。成績上が
     るかな。」

調子に乗って、

大塚  「田中先生、日本の歴史って、とても奥が深いもんですね。僕社会がとっても
     大好きになりました。」 
新井  「樋口先生、今日のつっかけの音は、いちだんと足取りも軽く、若々しく聞こえ
     ますよ、ってか?」

ちょっと首をかしげるみんな。

佐々木 「おれも言う、おれも。石塚先生、先生ってとてもかっこいいですよね。僕もそ
     の髪形まねしてもいいですか。」

おいおいと、周りのものが口を押さえ、あたりを見回す。

高橋ま 「大体、合唱祭で一位とったからって、何になんのよねえ。」
古澤  「そうそう、どこのクラスもやる気がなくって、審査員の先生に声が小さいだとか、
    元気がないとか文句言われてさっ。」
大井  「それでも順位だけは付けられちゃうのよねー。」

生方  「でも、中学校の合唱祭はもっとちゃんとしているかもよ。」
高橋あ 「きゃはは、学校が変わっても、私たちは変わんないんだから。」

大塚  「とにかく、先生呼んでこようぜ。」
中内  「そうだよ、じゃんけんの途中だったんだぜ。」
井上  「面倒だから、おまえ行ってこい。」
岡田  「えーっ、また僕がー?」
井上  「何だよ、いやなのか。」
岡田  「わ、わかりましたよう。」

ドアの方に向かう岡田。
大矢の前を横切る。

大矢  「行ったってむだよ。」

岡田  「えっ……。」

大矢  「先生は来ないわ。」

岡田  「な、何でだよぉ。」
大矢  「先生は、私たちに失望したわ。」

新井  「何だよ、たまに口を開いたと思ったら、難しい単語使いやがって。」

新井 「(○○に向かって)おい分かるか?」
○○はうなづき、新井はちょっと恥ずかしい。

井上  「はっ、先生はどうせ俺たちのことなんか、初めから期待してなかったさ。」

大矢  「合唱祭……今年でなくなるって、知ってた?」

一瞬、騒然となる。

大矢  「本当はね、今年も取りやめになることが決まっていたんだって。」

(間)

新井  「何だ、おしかったじゃないか。」

生方らの冷たい視線を感じて、気まずくなる新井。
大矢は悟りきった顔をしている。
        生方と堀川はどちらが口火をきろうかと目で話している。

堀川  「何で取りやめになるの?私たちのせいなの?」

大矢  「去年の合唱祭も、おおとしの合唱祭も、あまり盛り上がらなかったんだって。
     ううん、この学校の開校以来、合唱祭が盛り上がったことなんてなかったんだ
     って。だから、思い切ってもう止めようって先生たちが話し合ったんだって。」
阿部  「それだけの理由で行事がなくなるなんて信じられないな。」

寺村  「ねえ、私たちが頑張ればなくさなくてもいいんでしょ。先生に頼んでみようか。」
大矢  「(声を高めて)だから山崎さんは先生に頼んだんじゃない!」

山崎に視線が集まる。

山崎  「本当は、もっといろんな理由があるらしいの。みんなが言ってるように放課後
     の部活動のこともあるし、先生は言ってくれないけどその他にも合唱祭をなく
     さなくちゃいけない理由があるらしいの。」
生方  「でも、私たちが一生懸命練習すれば先生たちだって分かってくれるよね。」

大矢  「そうよ、だから山崎さんは先生に約束したのよ。一年三組は絶対に最優秀賞
     にふさわしい取り組みをしますって。(山崎をちらっと見て)実行委員になった
     のもその意気込みだと思っていたけど、通知表のためだったなんて。」

古澤はなぜか視線を落とす。

先頭へジャンプ


●シーン5

山崎  「わたし、大矢さんと合唱部に入って本当に良かった。大勢で一つのことに夢
    中になれるって、すてきなことよ。一曲一曲自分たちのレパートリーが増えていっ
    てね、段々と楽しくなってくるの。ううん、それだけじゃない。一曲歌い終わるたび
    にね、みんなの顔が変わってくるのよね。初めはあんなに苦労して曲を覚えてい
    たのに、今では楽譜を渡されるでしょ、そしたら、練習を始める前に、ああ、ここで
    あの子はああいう声を出すな、なんてことが頭に浮かんでくるの。」

小島  「あ、それ私にも分かる。ダブルス組むときって、一緒に練習してきた人とだった
     ら、あっ、このボールは私が打たなくてもカバーに回ってくれるって、すぐに分か
     るようになってくるもの。」

山崎  「クラスでも味わってみたかったの。ううん、こんなすてきな感じ、クラスのみんなに
    も感じてもらいたかったの。体育祭でも、文化祭でも良かったの。でも、私ががんば
    れるのは合唱祭だと思って……。でも、その合唱祭がなくなるかも知れないって聞
    かされて…。」

堀川  「それで最優秀賞をとるって先生に言っちゃったのね。」

 高橋ま、高橋あ、大井の三人がかたまって、

高橋ま 「そんなこと無理に決まってんじゃないのよねえ。」
山崎  「何で無理なの?」

高橋ま 「このクラスの男子を見てよ。…」

  男子は全員、何を言われるんだろうかと緊張する。

高橋ま 「だれ一人として、芸術的な顔をしてないわ。」

ちょっとうなだれる男子。
中内らは何を言うんだよ急にという顔をして、

大矢  「歌は顔で歌うんじゃないわ。」
中内  「お、おい、何で男子に話を振るんだよ。女子だってまじめに歌ってないじゃないか。」
高橋ま 「歌ってるわよ、あんたたちと一緒にしないでよ。」

越   「えー、歌ってたかなあ。」

山本らは首を振る。

高橋ま 「あー、わかったわよ。歌ってなかったけど、今度からちゃんと歌う。」
高橋あ、大井 「えー、真弓さん歌うのぉ?」

山崎の側に移動し、

高橋ま 「だって、しょうがないじゃない。このままだとまるで私たちのせいで合唱祭が廃止に
    なっちゃうみたいだもん。」
高橋あ 「じゃあ…、わたしもぉ……」

高橋まの側に移動する。
大井は戸惑い、古澤を見るが、古澤はうつむいている。

井上  「おれはやだからな、歌わねえよ。」
中内  「僕は…歌ってもいいけど、放課後の練習はいやだな。」
大塚  「おれも……。」
阿部  「じゃあ、いつ練習するんだよ。」
中内  「音楽の時間、やってるじゃないか。」
阿部  「そんなんじゃ、最優秀賞なんてもらえないよ。」
越   「第一、努力もなしに賞状をもらったってしょうがないじゃないか。やるんならやる、
    やらないんならやらないではっきりと決めようぜ。」

新井  「じゃあ、おれやらない。」
数名  「えっ……。」

 言ってはならない決断に、緊張した空気が流れる。

阿部  「このあいだね、部活の友達と八組でお弁当食べていたとき、何となく壁に張っ
    てある賞状に目が言ったんだ。そうしたらね、八組は体育祭総合一位、全員リレー
    二位、大縄跳び三位、学年種目二位、持久走大会一位だから体育会系なんだっ
    て。じゃあ、体育祭も持久走大会も、文化祭も、なに一つ賞状がもらえなかった僕
    たちは何なんだろう。なんかさ…なんでかさ…ムッときたんだよな。なんでかなぁ
    ー!」

 静まりかえる教室。
 全員がそれぞれの思いをめぐらせる。
 (仁平が口火をきるとともに、以降は発言者に一斉に視線が集まる。)

仁平  「おれたちのクラスって、そんなにだめなのかなあ……。」

寺村  「そういえば、三組以外の教室にはみんな賞状が貼ってあるわ。」

中内  「でも、担任の先生が独自に作った賞状だけのクラスもあるぜ。」

堀川  「先生が賞状をあげたいって思えるような取り組みをしているからよきっと。」
仁平  「おれたちも…やればできるかな。」
大矢  「うん、きっとできる。」
山崎  「賞がとれなくったって、やったという気持ちになれればいいのよ。」

おとなしい山本が勇気を出して、

山本  「ぼ、ぼくもやるよ。みんなの前で大声出すのって恥ずかしいけど、みんなと一緒
    なら、いっぱい練習するよ。」

仁平  「よーし、じゃあやってみっかーっ。」

「よっしゃーっ」という雰囲気で後ろに移動しかける一同。
新井はちょっとのけものにされそうになるが、単なるおふざけ。
ところが井上は席に座ってしまう。
古澤はまだうつむいて立ったまま。
涙ごえで、

古澤  「ごめんねみんなー!」

大井  「ど、どうしたの?」

古澤  「山崎さんが実行委員になるとき、先生に通知表に書いてもらえるのって聞いてい
     たって話…、でたらめなの。」

大矢たち 「えーっ。」

山崎が古澤を迎えるように、

山崎  「いいの、古澤さん。(皆の方へくるっと向いて)だって、その話し本当だもの。」
一同  「えーっ。」

しだいに笑い声になっていく。
間をおかずに、

高橋ま 「じゃあ練習再開よ。」
佐々木 「ああ、でも今日はあと十分ね。」
大塚  「そうだよな、あんまり部活に遅れてもいけないしな。」
中内  「よーしあと十分間。」

山崎と古澤が席についている井上の横を通りかかる。

山崎  「井上君も一緒に歌お。」
井上  「おれはやだね。」

越が飛びかかるようにして、

越  「まだそんなこと言ってるのかよー!」

越は井上のえり首をつかみかかる。
真っ先に気づいた阿部が止めにかかる。
大塚たちも止めにかかる。
しかし、井上は遠くに視線を向け、無抵抗。

井上  「皆知ってるだろ、おれ、すごい音痴なんだ。」

岡田がうなづく。
視線が集まり、口を押さえる岡田。

井上  「小学校のとき、おれのいたクラスが合唱コンクールに出たんだ。全校で一クラス
     だけ選ばれたんだぜ。はっきり言って、うれしかったよおれ。そのころから自分が
     音痴だって知ってたけどさ、おれらが選ばれたのはちっとだけど自分の力も含ま
     れてんのかなーってさ……。なのに…なのにさ…せんせーが言ったんだ。井上君
     は口をパクパクしてるだけで良いからね……。」

  声にならない衝撃を受ける一同。
  感受性の強い女子は涙ぐむ。
       
井上  「(口調を強めて)何が合唱だよ、何がクラスの団結だ!そんなの嘘っぱちじゃな
    いか。おれ、歌ってやったんだよ、大声張り上げてさ。そうしたら、ステージから降
    りたとたんにさ、みんな冷たい目で見てやんの。(間)そうしたら、クラスで一番気の
    きいたやつが出てきてさ、なんて言ったと思う?井上君の声につられた自分たちが
    練習不足だったってさ。おれだってみんなと一緒に練習してきたんだぜ。それなら、
    おれの口をふさぐ練習をなぜやらなかったんだ!」

充分の間

阿部  「僕らはそんな事しないよ。」
山本  「そ、そうだよ。ぼくだって勇気を出して歌おうって思っているんだから、井上君だ
     って歌えるよ。」

井上  「でも、いまさら練習したって…、歌詞だって覚えてないぜ。」

大矢  「ねえ、指揮をやってみない?」
井上  「指揮…。」

越   「そうか、その手があったか。」

山崎  「でも、大矢さんでも先生から教わってやっとできるようになったんでしょ。」
大矢  「大丈夫、やろうって気があれば今からでも間に合うわ。そして、少しずつ歌う練習
     もして、来年の合唱祭ではみんなで歌うの!」

来年の合唱祭という言葉をきいて、はっとする一同。

生方  「そうか、来年の合唱祭か。」
高橋ま 「そうよね、今年から廃止だってのが来年に持ち越されたんだから…。」
仁平  「来年もやる可能性だってあるじゃないか!」

「よーし、やるぞー」と後ろへ集まる。
大矢は井上の腕をとって、

大矢  「私たちは指揮の特訓よ。」

大矢と井上はステージ前面に移動して指揮の練習。
二人にスポットライトが向けられた状態で、ステージの蛍光灯は消される。
同時に舞台装置の変更を始める。
音楽が流れた状態で、観客の目は二人に向けられている。

先頭へジャンプ


◆第2幕
●シーン1

  井上、大矢がスポットライトを浴びた状態が続く。
  長は舞台装置のセット作業をしながら、それとなく前面に来ている。
  越が舞台下手より走り込んでくる。

越   「おーい、大変だよ、だいへん。」

「な、なに?」と、驚く井上と大矢。

越   「伴奏者が風邪で寝込んじゃったってよ。」

「ええー。」と驚き、作業を中断するみんな。
主要メンバーは前面にでてくる。他の者は静かに作業を続ける。

堀川  「そういえば松本さん、昨日寒気がするって言ってた。」
中内  「何だよ、自分の健康管理ぐらいちゃんとやってもらいたいよなぁ。」
高橋あ 「そんな言い方ないでしょ、みんな必死なのよ。」
井上  「どうすんだよ、合唱祭、明日だぜ。」
仁平  「俺達…棄権かなぁ……。」

「えっ……。」と静まりかえるみんな。

長   「私、小学生のとき、ピアノ習ってたんだ。」

「えっ……。」

長   「私で良かったら…やってみようかな……。」
生方  「む、無理よぉー、明日なのよ合唱祭。」
井上  「それに、小学生のときなんだろ、ピアノやってたのは。」
長   「こんなにみんながんばっているんじゃない、私だってがんばれるわ。それに…私
     …六か月前まで小学生だったのよ、私。大丈夫、やってみせる。」

「よっしゃー。」とまた元気を取り戻すみんな。
「がんばってね。」と長を励ます生方、高橋あ、堀川の3人は長とピアノのところへ行く。
井上、大矢は指揮の練習を再開する。
他の者は作業を再開する。
先頭へジャンプ


●シーン2

舞台は合唱祭当日。合唱祭と同じ隊形で、ステージに並ぶ。

アナウンス(   )
「次は一年三組。自由曲は翼をください。指揮、井上稔志。伴奏、長香織」

      観客 「いよーっ、待ってましたー。」
  声援というよりは冷やかしの声と、拍手が飛ぶ。
 伴奏が出だしからつかえてしまう。
  焦れば焦るほど、うまく行かない。
  身動きせず、じっと歌う姿勢で指揮者を見つめるみんな。
  観客のやじが始まる。
  「おーい、早く始めろよーっ。」
  「へたくそー、後がつかえてんだよーっ。」
  「引っ込め引っ込めーっ。」
  五、六回試したころ、明らかに長がしょんぼりとしてくる。
  泣き出しそうな長。
  行こうかどうしようかと迷っていた生方が、目立たないように駆けつける。
  さらにやじが続く。
  「もうあきらめて帰っちまえよーっ。」
  「ろくに練習してこなかったんだろうが、おまえらよーっ。」
  井上がたまりかねて、ステージの端まで行き、

井上  「おまえらに!…おまえらに…おれたちの気持ちが分かってたまるか。」

「おおっ怖い怖い、今度は脅しかぁ?」
「脅しで最優秀賞をとろおってかぁー?」
「はははははははははははは……。」

井上  「畜生ーっ。」

宮口たちをぶん殴るつもりでステージをかけ降りる井上。
いち早く、大塚、岡田、越が引き止める。
大塚 「指揮者がいなくちゃ進まないよ。」
岡田 「戻ろう。」
越  「言いたい奴には言わせておけばいいさ。」

阿部が歌い始める。
一同、はっと我に帰る。
仁平も歌い始める。
ステージに合唱が広がってくる。
4人がステージに戻る。
指揮がスタートする。

一番は全てメロディーで歌う。
途中がら伴奏が乗る。
一番から、改めて本当の一番に入る。

アナウンス(   ) 
「 (せりふは考えてもらいます)                                       」

最後に全員で合唱。

先頭へジャンプ



文化祭の一覧へ戻る
 
HOME


 

Copyright (C)  1996-2010  M.Tanaka.  All Rights Reserved.

このサイトの画像および文章は著作権法により認められた範囲を超えての無断利用を禁止します。
使用許可および問い合わせはこちらにお願いします。